編集長から|キャバレー王で蒐集家 福富太郎の審美眼
2021.04.27
敗戦後の東京で、喫茶店のボーイを振り出しにキャバレー王まで上りつめた福富太郎(1931〜2018)。
唯一の道楽は絵画蒐集で、そのコレクションをまとめて紹介する初の展覧会が開催されている。
福富は、世間の評判や美術史における価値に左右されることなく、自分の目を頼りに好きな絵を求め続けた。
そのなかには、河鍋暁斎(きょうさい)や渡辺省亭(せいてい)、小村雪岱(せったい)、川村清雄など、購入時は忘れ去られた存在だったものの近年になって再評価が進んだ作家たちの作品も多い。
戦後は色眼鏡で見られた戦争画も熱心に蒐集したのは、自分の歴史の中からこの戦争を除いて考えられないからだった。
買い集めるだけでなく、作品や作家について文献を調べつくす研究熱心な面があり、暁斎に関しては『猩々狂斎伝』を出版。福富は、美術史を書き換える力をもった蒐集家だったのだ。
今月号では、独自の審美眼と先見性を備えた稀代のコレクターを、その激動の生涯とともにお伝えしよう。
芸術新潮編集長・吉田晃子